ASAP(アサップロック)に関する質問と2人用ビレーに対する私見

著者:宇山昭彦



以下のような質問を受けることがあります。


〉ASAPを担架の引き上げ等の時のメインビレイのビレイとして使ってはいけないということを講習の中で聞いたような記憶があります。なぜだったでしょうか?理由を忘れてしまいました理由を教えて下さい。





ダメという意味でなく、担架引き上げや宙づり救助での2人荷重のチームレスキューでは、BCCTRの落下実験を通ったより良いもの。

例えば昔ながらの方法ではタンデムプルージック、540ビレー、MPD、クラッチ、マエストロ等の器具をあらかじめ用意して使用することがより望ましいという意味です。


オンサイトレスキュー、つまり何かのロープ作業等を行ってたときに、トラブルが起きたその場にいる人やまたその装備で即座に行う救助の場合は、現場で使用しているASAPを基本的に用いて救助活動を行うことが基本になります。



但し、今回の講習会で意図している前提条件は、オンサイトレスキューでなく組織的なチームレスキューの基本であり、その意味で、ASAPでなく、BCCTRの落下実験を満たしたプルージック等の器具を用いることがよいと説明しています。



オンサイトレスキューは、チームレスキューとジャンルが少し違うため考え方、用いる道具や救助の仕方が違うと切り分けて考えて頂くとわかりやすくなると思います。

その上で、消防や警察組織のチームレスキューの現場でも限られた人や切迫した状況や何かの理由で応用的に対応せざるを得ないケースでは、オンサイトレスキュー的な対応として、ASAPを用いる選択肢もあり得ます(但しショックアブソーバーは、2人荷重の対応が可能なアサップソーバーアクセスを使用して下さい)。



〉ペツルの取扱説明書を見ると、墜落してアブソーバーが全て伸び切った場合1.6mを要するというようなイラストがありました。

はい、そうです。ショックアブソーバーのメリットは、メインラインにトラブルが発生しビレーラインに大きな衝撃が掛かった場合にショックアブソーバーが伸びて衝撃を吸収してくれることです。

それに対してショックアブソーバーのデメリットは、ショックアブソーバーが伸びることによって、グランドフォール(地面まで伸びて激突してしまうこと)やオーバーハング等の障害物に激突してしまうリスクがあることです。



重要なことは、自由落下距離だけでなく、ロープ、ハーネスの緩み、ショックアブソーバー伸びをも加えたトータルの落下距離を考慮するべきで、この落下距離が大きくなればなるほどグランドフォールや障害物への激突のリスクが高まります。



安全な活動を行う場合には、使用する道具のメリットとデメリットを把握しそしてその潜在的なリスクを認識したうえで、そのリスクが発現しないようにしながら救助活動を行うことが重要だと考えます。

なお今回は、2人荷重での上げ下げを前提とした話しであり、1人で懸垂下降する場合には、ASAPを用いて活動を行います。1人荷重でも伸びリスクがあることに変わりありませんが、2人と1人では発生する衝撃荷重の大きさが違うことが挙げられます。


但し、それよりもそもそも1人荷重には、ASAPを超えるよりよいものがないと言えば語弊がありますが、一般的ではないので、ASAPが用いられています。


レスキュージャパンyoutubeチャンネルでアサップに関する、注意事項等を何点か上げているのでよろしければご覧ください!

●アサップの禁忌事項




●アサップ保持の注意点


スイスチーズモデルと安全管理の考え方 プルージックを契機に

著者:宇山昭彦


2010年頃に、アリゾナでRopes That Rescueのリードさんにロープレスキューの指導を受けているときに、机上講習でのスライドショー解説の合間にリードさんがフォワイトボードにスイスチーズを何枚か重ねたイラストを記載していました。これは、事故発生まで至るプロセスを図示したメタファーです。



その時の私の理解は、穴があると事故につながることを単に図示していているのだな、トムとジェリーの生まれた国でチーズには穴があるからそんなことを言っているのだな。

「フーン」というレベルのものでした。

あれから10数年が経ち、色々な経験やまた安全管理について勉強を重ねると、スイスチーズモデルはリードさんが考え出したものではなく、英国の心理学者であるジェームズ・リーズンがHuman error: models and managementで提唱した、事故やリスクを多層的な防護壁(スライスチーズ)で防ぐことが安全につながるが、但し、その防護壁にはいくつかの弱点(穴)があり、これら防御壁を不幸にもすり抜けたときに、事故が発生するメカニズムをメタファーで説明する安全管理や事故発生のメカニズムの描写であることを理解しました。

最近では、レスキュー3の3日間のコースであるRRO(ロープレスキューオペレーターコース)やレスキュージャパンのオリジナルであるツーテンションシステム講習でこの概念を紹介し参加者の皆様への事故防止や安全管理の一助になるように努めております。

ユーチューブショートで以下の動画を上げていますが、安全管理としてまずはプルージックが固くなるから交換という第一義的な話しとスイスチーズモデルをあてはめた、システムに対する防御壁を如何に張り巡らせるか、また張り巡らせた防御壁にどんな穴が発生しやすくそれをどう防ぐか?など考える機会にしていただければ幸いです。





クラッチのメリットと裏のマーク(ストップ、スタンバイ、アンチパニック、リリース)ついて

著者 宇山昭彦


ロープレスキューの器具で1つで多目的に使える元祖マルチパーパスデバイスは、MPD(Multi Purpose Deviceの頭文字をとってMPD)ですが、現在、もっとも人気と言っても過言ではない多目的器具は、クラッチです。

多目的とは、1台で3役、下降器、ビレー器具、倍力時のプーリーとしての役目を担う道具です。

クラッチ商品ページ(性能等こちらでご確認ください)

いままでは、ブレーキバーを降ろしでは下降器として使い、タンデムプルージックをビレー器具として使い、倍力時にはブレーキバーを外してプーリーに付け替えたりしていました。その最たるものが、ホットチェンジやコールドチェンジでした。この手間を多目的器具(マルチパーパスデバイス)は一挙に解消してくれました。

クラッチが現在この役割でもっとも人気と言っても過言でない理由は、その使いやすさです。MPDはレバー操作でつまんで持ち上げてレバーが止まるまでしっかり回さないといけないなど少し癖があるのですが、クラッチは操作感がIDと同じであり容易であること、また、2テンションシステムでの限定された少人数という条件の時に使われるダブルクラッチとして、一人で2つのロープを操作することも出来ます。

これらの点については、レスキュージャパンyoutubeチャンネルでアップ(クラッチの紹介とセッティング)していますが、今回は、クラッチに関する以下の質問を受けたのでそれに回答いたします。

Q. CMCのクラッチついて、クラッチの裏に書いてある4つのマーク(ストップ、スタンバイ、アンチパニック、リリース)はどのような意味で具体的にどのような時に使用するのでしょうか?



A. クラッチの裏の記載について回答いたします。


器具の裏には、矢印マークとそれに連動する、 STOP、STANBY、ANTIPANIC、RELEASEの4つの文字があります。

クラッチのレバーを回すと矢印が4つの文字のいずれかを指し示します、その文字がクラッチの操作状態を表します。

STOP(ストップ)→ 文字通りストップでロープの送り出しを止めます。そして作業姿勢の前段階の仮固定を行うポジションとなります。なお、作業姿勢である本固定は、ロープをくくりつけして固定します。


STANBY(スタンバイ)→ こちらも英語の意味通り、スタンバイは準備、待機なので、ストップの状態から少しレバーを引いて降下前の待機または準備状態の時の位置になります。

RELEASE(リリース)→ 緩めるとき、つまり懸垂降下での降下時や上部制動での荷下ろしの時に使います。

ANTIPANIC(アンチパニック)→パニック防止、操作ミス防止のためにあり、間違ってレバーを引いてしまうと、カチッという音とともにロープの送り出しが止まります。


また、レバーの位置については、以下の質問も講習会実施時によく頂きます。

Q 倍力システム設定時、引揚時はスタンバイでよろしいですか?スタンバイ~リリースの間はいつ使用しますか?

滑車を用いた倍力、つまりメカニカルアドバンテージシステムを用いて引き揚げる時は、レバーをリリースの位置にしてください。

スタンバイでもロープが細ければスムーズに巻き取ることは出来ますが、この位置で巻き取りを行うと摩擦抵抗が増えてしまいます。特に適合径のロープであっても少しロープが古くなると径が若干太くなり、このようなケースではレバーがスタンバイの位置では抵抗がかかり上手くロープを巻き取れないときや摩擦が発生しロスが出てしまうことがあります。

英語の意味通り、スタンバイはあくまでもスタンバイ(待機)の状態なのでいつでも動けるように待機している準備の状態です。


よって講習会では、倍力で本格的に巻き取るときには、スタンバイの位置でなく、スタンバイ~リリースの間の位置、より突っ込んで言えばロープとの干渉を無くしスムーズに動作が出来るようにレバーの位置を時計の針でいうところの12時つまりロープと同じ流れで邪魔にならない位置にすることをお勧めしています。



日本語でのクラッチの説明書(Herken)



但し、この説明書のイラストが引き上げ時には、スタンバイの位置のように見受けられます。そのままイラスト見ると、スタンバイの位置なのですが、私がメーカーに問い合わせると担当者から、リリースの位置で引き上げて下さい。そうでないとプーリー効率が落ちますと説明を受けています。


●クラッチの荷重の見える化



●クラッチの紹介とセッティング


RESCUE JAPANブログ