クラッチのメリットと裏のマーク(ストップ、スタンバイ、アンチパニック、リリース)ついて

著者 宇山昭彦


ロープレスキューの器具で1つで多目的に使える元祖マルチパーパスデバイスは、MPD(Multi Purpose Deviceの頭文字をとってMPD)ですが、現在、もっとも人気と言っても過言ではない多目的器具は、クラッチです。

多目的とは、1台で3役、下降器、ビレー器具、倍力時のプーリーとしての役目を担う道具です。

クラッチ商品ページ(性能等こちらでご確認ください)

いままでは、ブレーキバーを降ろしでは下降器として使い、タンデムプルージックをビレー器具として使い、倍力時にはブレーキバーを外してプーリーに付け替えたりしていました。その最たるものが、ホットチェンジやコールドチェンジでした。この手間を多目的器具(マルチパーパスデバイス)は一挙に解消してくれました。

クラッチが現在この役割でもっとも人気と言っても過言でない理由は、その使いやすさです。MPDはレバー操作でつまんで持ち上げてレバーが止まるまでしっかり回さないといけないなど少し癖があるのですが、クラッチは操作感がIDと同じであり容易であること、また、2テンションシステムでの限定された少人数という条件の時に使われるダブルクラッチとして、一人で2つのロープを操作することも出来ます。

これらの点については、レスキュージャパンyoutubeチャンネルでアップ(クラッチの紹介とセッティング)していますが、今回は、クラッチに関する以下の質問を受けたのでそれに回答いたします。

Q. CMCのクラッチついて、クラッチの裏に書いてある4つのマーク(ストップ、スタンバイ、アンチパニック、リリース)はどのような意味で具体的にどのような時に使用するのでしょうか?



A. クラッチの裏の記載について回答いたします。


器具の裏には、矢印マークとそれに連動する、 STOP、STANBY、ANTIPANIC、RELEASEの4つの文字があります。

クラッチのレバーを回すと矢印が4つの文字のいずれかを指し示します、その文字がクラッチの操作状態を表します。

STOP(ストップ)→ 文字通りストップでロープの送り出しを止めます。そして作業姿勢の前段階の仮固定を行うポジションとなります。なお、作業姿勢である本固定は、ロープをくくりつけして固定します。


STANBY(スタンバイ)→ こちらも英語の意味通り、スタンバイは準備、待機なので、ストップの状態から少しレバーを引いて降下前の待機または準備状態の時の位置になります。

RELEASE(リリース)→ 緩めるとき、つまり懸垂降下での降下時や上部制動での荷下ろしの時に使います。

ANTIPANIC(アンチパニック)→パニック防止、操作ミス防止のためにあり、間違ってレバーを引いてしまうと、カチッという音とともにロープの送り出しが止まります。


また、レバーの位置については、以下の質問も講習会実施時によく頂きます。

Q 倍力システム設定時、引揚時はスタンバイでよろしいですか?スタンバイ~リリースの間はいつ使用しますか?

滑車を用いた倍力、つまりメカニカルアドバンテージシステムを用いて引き揚げる時は、レバーをリリースの位置にしてください。

スタンバイでもロープが細ければスムーズに巻き取ることは出来ますが、この位置で巻き取りを行うと摩擦抵抗が増えてしまいます。特に適合径のロープであっても少しロープが古くなると径が若干太くなり、このようなケースではレバーがスタンバイの位置では抵抗がかかり上手くロープを巻き取れないときや摩擦が発生しロスが出てしまうことがあります。

英語の意味通り、スタンバイはあくまでもスタンバイ(待機)の状態なのでいつでも動けるように待機している準備の状態です。


よって講習会では、倍力で本格的に巻き取るときには、スタンバイの位置でなく、スタンバイ~リリースの間の位置、より突っ込んで言えばロープとの干渉を無くしスムーズに動作が出来るようにレバーの位置を時計の針でいうところの12時つまりロープと同じ流れで邪魔にならない位置にすることをお勧めしています。



日本語でのクラッチの説明書(Herken)



但し、この説明書のイラストが引き上げ時には、スタンバイの位置のように見受けられます。そのままイラスト見ると、スタンバイの位置なのですが、私がメーカーに問い合わせると担当者から、リリースの位置で引き上げて下さい。そうでないとプーリー効率が落ちますと説明を受けています。


●クラッチの荷重の見える化



●クラッチの紹介とセッティング


クラッチの不具合の有無の調査のお願い

ロープレスキューで近年人気のクラッチ。

メーカーからクラッチ( CLUTCH )の調査依頼がありました。

安全のためのクラッチをお持ちの方は確認をお願いします。

以下、解説のユーチューブショート動画です。


問題の部分は、クラッチの先端(裏)の部分のピンです。

通常は以下のように段差がなく平らになっています。

不具合のあるものは、以下のようにピンが飛び出して盛り上がっています。


今回の対象製品は、製造番号が 2024 324 – 001 から 2025 100 – 999のものです。


2024は年

324は日

その年の324日に製造されたことを示します。

製造番号は以下の部分にあります。

以下の写真では、2000年134日目に作られたことを表しています。

その下のハイフンより下の番号はその日に作られたロットナンバーです。



問い合わせフォームはこちら(英語です)

なお、当社で販売したクラッチはこの製造番号のものはありませんでした。

とはいえ日常点検、定期点検も適切に実施し安全な使用をお願いします。

もやい結びの欠点-リング荷重



もやい結びは、キングオブノットと呼ばれ、万能な結び方で、レスキューでは三打ち救助をはじめロープレスキューでも使用される結び方です。

そんなもやい結びですが、1つ大きな欠点があります。

それがもやい結びの欠点-リング荷重です。

リング荷重とは、もやい結びの輪(リング)の部分にひっぱりの荷重をかけると結びがほどけてしまう危険な行為を指します。

輪(リング)に荷重が掛かることからリング荷重と呼ばれます。



通常のもやい結びです。末端処理はしていません。



もやいのリング部分に荷重をかけると





末端が引っ張られ徐々にゆるんで来ました。



あっと思った瞬間!



ほどけてしまいます。

過去にクライミングの世界でこのリング荷重による事故が何件か発生しています。

スタティックロープ、三打ちロープはたまた何か命綱のような使い方をする場合で、もやいを使用する時は、リング荷重に気をつけ、リング荷重を掛けない、万一のリング荷重に備えて末端処理を必ず実施することを行ってください。


末端処理の方法は、多くあるのですが以下では、ロープレスキューで行われる代表的な、もやい結びの末端処理の方法を紹介します。

もやい結びの末端処理 その1

もやい結びの末端処理 その2

また、そもそものもやい結びの結び方とリング荷重について動画や写真で紹介しています。

もやい結びの結び方と末端処理とリング荷重に関する情報の整理


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